概要

相互容量測定方式は、主にタッチパネルで使用されるほか、数の多いタッチスイッチでも使用される静電容量測定方式です。

ここでは、相互容量測定方式の特徴や用途、静電容量変化に関して説明しています。

相互容量測定方式の構成

相互容量測定系のイメージ

相互容量測定方式は、駆動(Tx)電極と測定(Rx)電極の間の静電容量を測定します。自己容量測定方式の場合は、検出電極とGND電極の間の静電容量を測定します。被検出物が無い状態の静電容量(ノミナル容量)は相互容量方式の方が対GND容量が含まれない分、だいぶ小さいです。このため、静電容量測定回路から見たダイナミックレンジが大きく取れて、結果感度が高いと表現されます。

重量を測定するはかりで例えてみます。1kgがフルスケールのはかりがあったとして、被測定物をお皿に載せてからはかると、お皿の重量分、測定できるレンジが減ることになります。自己容量方式の場合、お皿の重量が700gなので測定に使えるレンジは300g、相互容量方式の場合、お皿の重量が300gなので測定に使えるレンジは700gというイメージです。

相互容量測定方式の用途

相互容量測定方式は、タッチパネルやタッチスイッチに使用されます。というのは、相互容量方式の大きな特長が、タッチスイッチやタッチパネルをマトリックスで構成した時に、ゴーストが発生しないことだからです。

タッチスイッチ(ボタン)を2個や3個使用する場合にはあえて相互容量方式を選択せずに自己容量方式で実装することがほとんどではないかと思います。が、タッチボタンを25個使用したい場合、自己容量方式の場合、測定回路から25本の配線を出す必要があるのに対して、相互容量方式の場合5本x5本=25のマトリックスを構成すれば配線の本数は10本で済みます。

自己容量方式でもマトリックスを構成することが可能なのですが、その場合2点以上タッチした場合にゴーストと呼ばれる、実際にはタッチしていない場所もタッチしているように見え、どちらをタッチしているか判別できない現象が避けられません。このため、2点タッチ・10点タッチといったマルチタッチを必要とするタッチパネルでは相互容量方式が必要になります。

相互容量方式の容量変化

自己容量方式の場合、検出電極から出た電気力線は必ずGNDへ戻るため、被検出物が近接してきた場合、静電容量はノミナル容量よりも大きくなる方向へ変化するのみです。これ対して、相互容量方式の場合、ノミナル容量よりも減少する場合と増加する場合とがあることが特徴です。

相互容量測定用の電極(の上のオーバーレイ)にタッチしていない時のTx電極とRx電極の間の静電容量をCMとします。これはほぼノミナル容量なので小さめの静電容量です。また、人体とGNDの間の静電容量をCGとします。静電容量測定回路の中でGND電極は比較的大きな導体である場合が多く、さらに指に比べて人体のサイズは十分に大きいため無視できない静電容量を持ちます。また、測定回路側から見て人体は一つの大きな導体とみなすことができます。

相互容量測定回路と近接時の静電容量モデル

指が近づくと、指とTx電極の間にCTの静電容量を、指とRx電極の間にCRの静電容量を持ちます。指が近づけば近づくほど静電容量値は大きくなります。

ここで2つの静電容量を直列に接続した時の合成容量を考えます。CAとCBの2つの静電容量を直列に接続し、CAの方がCBよりも明らかに小さい場合、合成容量は小さいほうのCAに近い値になります。

Tx電極と指との間の静電容量CTが十分に小さい間はTx電極から出た電気力線は人体を通ってGND電極へ向かうためTx電極とRx電極の間の静電容量は小さくなります。

ただし、指がTx電極とRx電極の上のオーバーレイをぴったり覆うぐらいしっかりとタッチすると、CTやCRは、CMやCGよりもずっと大きな値になります。結果、Tx電極とRx電極の間の静電容量はCTとCRを直列に接続した合成容量で近似でき、もともとのCMより大きな値に増加します。

相互容量方式の容量変化の疑問点

相互容量方式を採用しているタッチパネルメーカーやICメーカーの説明を見ると、わりと多くのメーカーさんが相互容量方式の特徴はタッチすると容量が減ることだと書いてあります。指が離れた条件では正しいのですが、タッチするぐらい指が近づくと静電容量は増加します。が、ここを理解していなくてもタッチパネルやタッチスイッチとしては使用できているので問題ないと思います。

タッチパネルやタッチスイッチ以外の用途で使用する場合には、正しく検討する必要があるかもしれません。